なぜ医者は時間外労働をするのか? 現役外科医の呟き

2019年に厚生労働者は、医師の残業時間の上限を「年1860時間」としました。

これは1ヵ月当たりに換算すると155時間 (過労死ラインは2-6ヵ月平均80時間)となります。

そんな過酷な状況に置かれている医師ですが、「働き方改革」によって、医師の勤務時間は徐々に改善されようとしています。

私の病院でも医師の勤務実態調査・勤務効率化調査など、医師の負担を減らす方向に進んではいますが、実際のところはどうなのでしょうか。

引用:医師の働き方改革についてー厚生労働省

厚生労働省の調査によると、40%以上の医師が月80時間以上の超過勤務をしているようです。

新型コロナウイルスで、様々な角度から医療者に焦点が当たっている今、改めて現役外科医の視点から考えてみます。

なぜ時間外労働が減らないのか

外科医の仕事内容

カンファレンス

入院している患者さんの治療経過報告・手術内容の振り返り・論文などの勉強会を行います。

通常勤務開始前や日中業務が終了後から始まります。

大きい病院であればあるほど、このカンファレンスは厳しく、頻回に行っている印象です。

患者さんに行われている治療が正しいか、より良い治療がないかを大人数で話し合うことが、医療の質の向上につながり、また若手のプレゼンテーションの修練の場となります。

 

  

病棟の管理

入院している患者さんの診察や点滴、検査データの確認、治療を行います。

チーム制であればその日に手術や外来に当たっていない者、主治医制であれば各々が診療に当たります。

 

外来(一般外来・救急外来

一般外来は、枠が決められていて、その者が対応します。

私の外科では、手術を要する患者さんの診察や術前検査の調整、術後の患者さんの傷の治り具合やフォローの定期検査を行います。

救急外来は、当番の者が決められていたり、その日の外来医が対応するなど様々で、最初に診察した医師が主治医になることが多いです。

 

検査・手術

手術はたいてい2~4人で行います。

17時頃の定時までに終わるように、診療科、麻酔科、手術室が協力して手術枠を調整します。

長時間の治療が必要な場合、朝開始で終了予定時間が深夜ということもあります。

手術は執刀医・助手・第2助手、・・ といった立ち位置が決まっています。

執刀医は主治医が行うことが多く、開始から終了まで立ち会うことがほとんどです。

 

当直

夜間帯の業務をいいます。月に4-5回くらいの病院が多いです。

入院患者さんの対応、救急対応が主です。

通常は日中の勤務が終わり、そのまま当直に突入します。

朝を迎えても、人手がいなかったり、自分の対応している患者さんの外来や手術があり、翌日勤務をせざるを得ない状況に置かれた医師が多いです。

 

休日当番

平日に加えて、休日も病棟管理、外来対応を行う者を数名の当番で回します。

  

学術活動(学会発表、論文作成)

日中は時間が取れないため、勤務時間後や休日などに行うことが多いです。

後回しにできない仕事が多い

終わらない分の仕事は明日やろう、が通用しない仕事が多いです。

外来患者さんが待っている、長時間の検査・手術が終わらない、病棟対応など。

例えば救急車で患者さんが来院した場合はどうなるでしょうか。

15:00 来院 緊急処置、血液検査やCT検査などの対応

16:30 結果に対し数名で協議し、緊急の治療介入(手術など)が必要と判断

本人、御家族への病状説明に加え、手術室調整、点滴や検査の追加、などの事務作業を並行しながら行い、

17:00 手術室入室

20:00 手術終了 術後管理、摘出検体(臓器、細胞など)のホルマリン固定などの処理、手術記録などの事務作業

22:00 帰宅 

スムーズに行った場合はこんな流れでしょうか。

また普通の病院であれば、診療科ごとの当直医は1、2人であり、時間外は少人数で対応しなければならないことがあるため、頭も体もフル稼働です。

仕事の分担が不十分

少しずつ改善はしてきていますが、良くも悪くも医師の権利が強く、なんでも医師任せになってしまい、時間外労働でカバーせざるをえない状況が多いです。

病院によっては、朝の採血、点滴確保を医師が勤務時間外にきてやったり、全国統計用の患者さんのデータ入力を行ったり、病棟や入院の手配、検査や手術の準備、患者さんの案内などを時間の合間をぬって医師がやっているところもあります。

近年では看護師さんのできる医療処置が増えてきていること、ドクターエイド(医師事務作業補助者)さんの雇用が増えてきて、少しずつ改善されてきています。

みんなが効率よく業務を進めるために、よりいっそう改善して欲しい領域です。

夜間、休日にも入院患者さんがいる

通常、休日の当番が決まっています。

しかし自分の担当患者さん、特に術後の患者さんであると、休日であっても、容態に変化がないか確認するために出勤する医者がほとんどです。

万が一具合が悪ければ、休日、夜間であれ緊急対応しなければなりません。

やはりその患者さんのことを一番知っているのは主治医なので、心情的にそうなってしまうのは仕方ないと思います。

研鑽を積む時間が必要

カンファレンスや学術活動は、患者さんへの直接的な利益はありません。

しかし、医師にとって研鑽は必要不可欠です。

ただ日常業務に忙殺されているだけでは、新たな知識、スキルの習得はなかなかできません。

浅い知識やスキル不足は、不適切な医療につながり、患者さんに不利益をもたらします。

業務時間内に研鑽を積む時間は確保できないのが現状であり、時間外にやらざるを得ません。

意外と現場の医師は辛い自覚はない

これは意外かもしれませんが、世の中の方々が想像しているほど、医師は自分のことを大変だと自覚していないのではないかと思います。

私も勤務時間は少なくない側だと思いますが、不満はあまりありません。

医師としてのスキルアップは楽しいですし、それが患者さんの幸せに繋がり、感謝されるという素晴らしい仕事だと考えています。

しかし、強い志を持っていたとしても、ハードワークが続いている時期は、やはり体力的に辛いときがあり、患者さんや周囲への対応が疎かになったり、集中力が保てなかったりします。

医療の質を保つためにも、もっと効率よく働ける環境が構築されたらなと、常々思っています。

まとめ

現状の医師の働き方を、現場の視点から解説してみました。

病院、地域、時期、診療科によって仕事内容、働き方には大きく違いがあります。

医者の働き方のイメージをつかんでいただき、日本全体でより良い医療に繋がっていけたら嬉しいです。

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